藤本秀基 – 伝統とITの融合、そして「個」から「集団力」へ
#06
INTERVIEW
役員インタビュー
「正しいことを粛々と。
活路は見出せる」

株式会社PANDASTUDIO.TVで経営全般を見る社外取締役が、藤本秀基さんです。キャリアの原点は百貨店の売り場。その後、映像・テレビ業界に移り、老舗のポストプロダクションで番組制作と編集技術のマネジメントに携わり、経営を担うまでになりました。
担当は、経営全般と、スタジオ運営や配信現場の統括、オペレーションの仕組み化、そして次世代スタッフの育成と組織開発です。「属人的な職人技の世界」から「テクノロジーを駆使したインフラ産業」へと変わっていく映像業界のなかで、現場のスタッフが迷わず力を出せる環境をつくる仕事です。
百貨店の売り場で叩き込まれた人材マネジメントの基礎、ポストプロダクションで挑んだ古い慣習の改革、そしてITと人を掛け合わせることへの関心。判断に迷ったときの基準のことまで、じっくりお話を聞きました。
CONTENTS|目次
PROFILE|プロフィール
| 役職 | 社外取締役 |
|---|---|
| 担当 | 経営全般、スタジオ運営と配信現場の統括、オペレーションの仕組み化、次世代の育成と組織開発 |
和歌山県和歌山市、紀の川の河口のあたりで育ちました。小学校から高校まで剣道を続け、卒業後は「もう一旗揚げてみよう」と上京。大学でも体育会剣道部で4年間、竹刀を握り続けました。上下関係の厳しい環境で身につけたのは、人との距離のはかり方。「みんなが苦手だと言う人と付き合うのが得意技」と話す原点は、この4年間にあります。
大学卒業後は、実業団の剣道部があるそごうから声をかけてもらって入社。売り場で約8年間を過ごしたあと、映像・テレビ業界へ移り、老舗のポストプロダクションで取締役副社長まで務めます。パンダスタジオとの関わりは、2016年の東京テレビセンター(現・浜町スタジオ)の事業承継から始まりました。
01CHAPTER社外取締役として、いま

改めまして、自己紹介をお願いいたします。
株式会社PANDASTUDIO.TV 社外取締役の藤本秀基です。
実は、私のキャリアの原点を辿ると「百貨店」に行き着くんですよ。売り場という接客の最前線で、徹底した顧客目線やおもてなしの心、そして何より「一人ひとりの強みを引き出しながら、チームとしてどう結果を出すか」という人材マネジメントの基礎を叩き込まれました。この時に身につけた「人を育て、組織を動かす土台」が、今でも私のすべての軸になっています。
その後、映像・テレビ業界へと飛び込みまして、老舗のポストプロダクションで長年、番組制作や編集技術のマネジメント、そして会社経営に携わってきました。
現在パンダスタジオでは、社外取締役として経営全般を見つつ、スタジオ運営や配信現場の統括、オペレーションの仕組み化、そして次世代スタッフの育成や組織開発を担当しています。映像業界はいま、「属人的な職人技の世界」から「デジタルやテクノロジーを駆使したインフラ産業」へと速いスピードで進化しています。その中で現場のスタッフが迷わずに、最高のパフォーマンスを発揮できる環境をつくり、お客様から選ばれ続ける盤石な体制を築くことに全力を注いでいます。
ご就任以前、パンダスタジオとは、どのような関わりをお持ちでしたか?
大きな転機になったのは、2016年の「東京テレビセンター(現・浜町スタジオ)」の事業承継でした。
当時、60年以上の歴史がある名門スタジオの承継をパンダスタジオが進めていく中で、私もその重要なプロセスに関わらせていただく機会があったんです。そこで目の当たりにしたのが、西村社長が描くスケールの大きなビジョンと、意思決定と実行のスピードでした。本当に圧倒されましたね。
私には、百貨店で培った組織マネジメントの規律と、ポスプロ業界で磨いてきた「プロが求めるシビアな品質基準」がありました。一方で西村社長は、最新のIT技術を大胆に映像の世界へ持ち込み、業界の常識を打ち破っていく「スピードと革新的なスケール力」を持っていた。
「この二つが掛け合わさったら、互いの強みを完璧に補い合える」という確信が持てたんですね。そこから現場の支援や事業推進をご一緒するようになり、正式に社外取締役として参画することになりました。
02CHAPTER藤本さんから見た、パンダスタジオ
今から約5年前、西村社長は「映像の世界でリーダーシップを張れる企業になる」と語り、500名の採用計画を掲げていました。あれからパンダスタジオはどのように変わってきたと感じますか?
会社が大きくなったという話にとどまらず、パンダスタジオという存在自体が、映像業界における『まったく新しいビジネスモデル』そのものになったと感じています。
当時掲げた採用計画や事業拡大は速いスピードで達成されましたが、本質的な進化は売上や社員数ではありません。「映像制作会社」「スタジオ運営会社」「機材レンタル屋」といった、これまでの業界の定義や枠組みそのものを無効化してしまった点にあります。
まず、スタジオ・機材・配信技術・運用人材という、これまでバラバラだったサービスをITで統合し、「ここに来れば映像のすべてが最速・最高品質・適正価格で完結する」というワンストップのプラットフォームをつくり上げたこと。
次に、ITと自動化によって「属人性を排したスケールモデル」を確立したこと。だからこそ、多国籍のスタッフや若手でも即戦力として活躍でき、アジア展開しても品質を落とさずにスケールできるわけです。
そして、個人のスタンドプレーから、多様な人材が強みを持ち寄る「集団力のモデル」へと脱皮したこと。
いまは、パンダスタジオという新しい産業インフラの基準を自分たちで創り出している感覚です。そのリーダーシップが名実ともに確立された5年間でしたね。
そんな5年前から変わらない、「パンダスタジオの強み」はどこにあると感じますか?
ビジネスモデルがどれだけ進化しても、根底にある強みは5年前から何ひとつブレていません。
他社には真似のできない要素が、強固に結びついている点です。
ひとつは、投資と実装のスピード、そして常識を疑う突破力。一般的な企業が何ヶ月も会議や稟議を重ねている間に、パンダスタジオは新しい機材を即座に導入し、拠点を立ち上げ、現場に投入して検証まで終えています。良いと思ったものは今日やるというスピード感は、創業期から変わらない最強の武器です。
それから、他社が追いつけない構造的な参入障壁です。単に機材が多い、スタジオがあるというだけなら資金力のある大手でも真似できますが、膨大な機材ストックと、自社開発された独自の受発注・在庫管理システム、属人性を排した現場オペレーション、日々の稼働データ──これらが高いレベルで統合されているエコシステムは、一朝一夕に表面だけを真似できるものではありません。これがあるからこそ、他にない存在でいられるんです。
もうひとつは、顧客の困りごとに愚直に応える利他の姿勢です。「なぜそこまでスピード配送や最新機材にこだわるのか」。原点はシンプルで、「現場で困っているお客様を何としても助けたい」という利他の心なんですね。この誠実さがあるからこそ業界から大きな信頼をいただき、それが利用実績やデータとなって、さらに真似できない強みへと育っていく。このDNAがある限り、パンダスタジオの優位性は変わらないと思います。

03CHAPTER百貨店から、映像の世界へ
これまでのお仕事の歩みをお話しいただけますか?
私の歩みを大きく分けると、接客とマネジメントの基礎を覚えた百貨店時代、映像制作とポスプロ経営に携わった麻布プラザ時代、そして配信インフラとDX経営のパンダスタジオという3つのフェーズになります。振り返ってみると、どの時代も「人を熱狂させるエンタメの力への確信」と「現場の力を最大化するマネジメント」にこだわり続けてきた人生でした。
それぞれの会社では、どのようなお立場で、何に取り組まれたのですか?
最初は株式会社そごうで、約8年間。売り場担当として、おもちゃ売り場などのフロアマネジメントを担当しました。百貨店ならではの質の高い接客や顧客心理を学びましたね。特に印象的だったのが、当時大ブームだったハイパーヨーヨーの体験型イベントを手がけたことです。目の前で子どもたちが目をキラキラさせて歓声をあげる姿を見て、「人の心をこんなにも動かすエンターテインメントを、一生の仕事にしたい」と心から思いました。
また、年代も価値観もバラバラなアルバイトやパートさん、派遣スタッフの方々と信頼を築き、どうモチベーションを引き出して目標を達成するかという「人材マネジメントの原理原則」を叩き込まれた時代でした。
次が麻布プラザ株式会社です。老舗ポスプロへの転職ですね。最初は泥臭い営業からスタートし、ディレクターやプロデューサーとして番組制作の最前線に立ちました。クリエイターやタレントのマネジメントなど制作の川上から川下までを経験し、最終的には取締役副社長として経営を担うことになります。
ここで挑んだのが、古いオペレーションの抜本改革でした。当時の業界は個人の長時間労働や、職人技に頼り切った非効率な慣習が当たり前だったんです。それを見直して、組織的な業務フローへ再構築して収益性を大きく高めました。大事にしたのは、ただ効率化するだけじゃなくて、クリエイターが疲弊せずに新しい表現へ挑戦できる「余白」をつくること。職人の感性を活かしながら、高収益と革新性を両立できる組織基盤をつくったこの経験が、いまパンダスタジオで進めている「属人性を排した仕組み化」に直結しています。
そして、いまのパンダスタジオです。浜町スタジオの事業承継を機に参画し、名門が持つ歴史や格式と、パンダスタジオが得意とする最先端のIP伝送・小型高機能機材を掛け合わせたハイブリッドなスタジオ運営を確立してきました。最新のデジタル技術やAIを現場のフローに落とし込み、「誰もが高いクオリティを提供できる仕組み」と次世代の育成を今まさに推し進めています。
そごうで学んだ「顧客志向と人を動かす力」、麻布プラザで培った「映像への執着と組織経営のリアル」。この2つがあるからこそ、いまパンダスタジオで、急進化するテクノロジーを確固たる現場の「オペレーション」へと落とし込めているんだと実感しています。
04CHAPTER参画を決めた理由
パンダスタジオの社外取締役をお引き受けいただいた理由や、決め手はなんでしたか?
ひと言で言えば、「西村社長が推し進める『ITによる革新』に強く惹かれ、そこに私が培ってきた『人材マネジメントの知見』を掛け合わせたら、どんな面白い化学反応が起きるだろう」という、ワクワク感があったからです。

これまでの映像業界って、どうしても徒弟制度のような職人気質が根強く、閉鎖的で人を体系的に育てにくい構造がありました。「技は見て盗め」「理不尽に耐えて一人前」といった古い価値観で若手が疲弊していく姿を、私自身ずっと問題視してきたんです。麻布プラザで副社長としてその改革に挑んできた自負もありました。
そんな時に出会った西村社長は、業界のしがらみにとらわれず、最新のITやデジタルツール・自動化を大胆に取り入れて、ビジネスの枠組みそのものを塗り替えようとしていた。そのスピードと実行力に、憧れと可能性を感じたんですね。
ただ、どれほどテクノロジーが進化しても、それを動かし、価値を最大化してスケールさせるのは「人」であり「組織」です。
「パンダスタジオのIT変革」×「現場に根ざした私のHRM・組織変革」
この2つが融合すれば、職人文化に疲弊していた業界の壁を突破して、テクノロジーを駆使しながら魅力的な人材が次々と育ち、高収益を生み出す全く新しい企業モデルがつくれるんじゃないかと。その未来を自分自身の手で切り拓いてみたいと思ったのが、参画をお引き受けした決め手でした。
前回のインタビューから5年がたちましたが、パンダスタジオとの関わり方に変化はありましたか?
ええ、関わり方は大きく変わりましたね。
以前の「大所高所からの助言や見守り」から、より現場に深く入り込んだ「組織と仕組みの実装・伴走」へと進化しました。
当初はポスプロ経営の知見を元に、経営視点のアドバイスが中心でした。しかしパンダスタジオが機材レンタル事業を急拡大させ、大型拠点を増やし、海外へと一気に規模を広げていく中で、「会社のIT革新のスピードに、いかに組織と人の成長を追いつかせるか」が経営の最重要テーマになってきたんです。
ですからこの数年は、現場に深く入るようになりました。
たとえば、機材トラブルや運用のミスを個人の責任にするのではなく、チェック体制やデジタルツールで解決する「オペレーションの標準化」。あるいは、「見て学べ」を脱却し、未経験者や若手、多国籍なスタッフでも早期に戦力化できる育成・評価の枠組みづくり。さらには、現場の各レイヤーがAIなどの最新ツールを自然に使いこなし、業務負荷を下げながら高い付加価値を生み出せる環境づくりですね。
「ITのパンダスタジオ」という強力なエンジンに、人が育ち持続する強靭な足腰をつけていく──その役割において、非常に濃密で手応えのある関わり方へと進化してきたと感じています。

05CHAPTER判断の軸
経営について意見を求められる際、どのような判断基準や価値観をもとにお答えになりますか?
判断のベースにしているのは、大きく2つですね。
ひとつは、「その意思決定は、関わる人に対する『利他』に基づいているか」。
そして、「属人性を排し、テクノロジーを活かした『仕組み』としてスケールするか」です。
映像や配信、ITの世界は変化が激しいですから、放っておくと目先の利益やトレンド、あるいは個人の職人芸に引きずられてしまいがちです。でも、会社が長く愛され、持続的に成長するためには、「お客様や社員にとって本質的な価値になっているか」という誠実さと、「一部のスター社員の根性に頼らず、誰もが再現できる仕組みになっているか」という視点が欠かせません。
その判断基準は、どのようなご経験から身についたものですか?
まさに、私の3つのキャリアの現場で身についたものです。
「利他の精神」は、そごう時代ですね。多様なスタッフと売り場をつくる中で、人は強制ではなく、環境と動機付けによって自ら輝くという人材開発の基本を学びました。
「仕組み化」は、麻布プラザ時代です。職人技と長時間労働に依存して現場が疲弊していく業界の限界を目の当たりにして、人の根性論に頼るのではなく、システムや仕組みで解決しなければ企業はスケールしないと確信したんです。
そしてパンダスタジオで、IT革新に出会いました。優れたテクノロジーがあるからこそ、人は無駄な作業から解放され、より本質的な価値提供に集中できる。テクノロジーと、人や組織が正しく融合して初めて、会社は美しくスケールします。
だからこそ今でも、それは相手のためになっているかという利他の精神、そして根性に頼らず、テクノロジーと仕組みで解決できているかという原点に立ち返って議論するようにしています。
他の経営陣や取締役の方に助言される際に、大切にしていることは何ですか?
心がけているのは、耳ざわりのいい共感だけで終わらせず、現場と顧客の視点から『不都合な真実』も含めて率直に伝えること。そして個人の責任論に落とさず、常に『構造と仕組み』の改善に議論をフォーカスさせることです。
ひとつは、推進力を活かすためのブレーキと補正です。うちの経営陣は強い突破力を持っています。そのエネルギーは止めずに、「そのスピードに現場の運用が追いついているか」「お客様との信頼に歪みが出ていないか」を客観的に点検し、必要なリスクヘッジを提言します。
それから、「人を責めるな、仕組みを直せ」という視点ですね。現場でトラブルが起きると、どうしてもあいつの不注意だと個人を責めたくなりますよね。でも、ミスが起きるのは個人の問題ではなく、業務フローやシステムの欠陥なんです。だから経営陣との議論でも、「誰がやっても同じミスが起きない仕組みやAIをどう組むか」という構造改革の議論に必ず引き戻すようにしています。
もうひとつは、目的に対する本質的な問いかけです。日々の判断はどうしても「今あるリソースでどうするか」という積み上げの議論になりがちです。そこに、「そもそも私たちが目指す長期的なゴールは何なのか?」「この判断は本当に関わる人のためになっているか?」と、一段高い視座からの問いを投げかける壁打ち相手でありたいと思っています。経営陣それぞれの熱量を心からリスペクトしているからこそ、遠慮なく本質を突く。それが私の役目ですね。

06CHAPTER人が育つ組織
人が育つ組織をつくるうえで、最も大切にしていることは何ですか?
個人の能力を研ぎ澄ますのはもちろんです。
そのうえで仲間同士がお互いの強みを生かし合える『集団力』の高い組織をつくることを一番大切にしています。
昔の映像業界は「孤高の職人になれ」「腕を磨け」というスタンドプレーの世界でした。もちろん個人の技術研鑽は大前提ですが、プロジェクトが高度化・複雑化した現代において、一人の天才だけで出せる価値には限界があります。
だからこそ、「個から集団へ」「個人の突破力から、補い合う集団力へ」とシフトしなければなりません。
そのためにはまず、全員が同じ型の職人を目指す必要はないんです。最新機材に強い人、調整力が高い人、緻密に管理できる人──それぞれの凸凹を認め合い、強みで弱みを補い合える関係性をつくること。
そして、ミスが起きても個人を責めず「仕組みをどう直すか」を話し合える心理的安全性を整えることですね。そうして「自分はチームに助けられ、育ててもらった」という原体験を持ったスタッフが、次は周囲を巻き込んで仲間を活かすリーダーへと育っていく。この好循環こそが、持続可能な組織の核心だと思っています。

意見が対立するメンバーをまとめる際に、心がけていることは何ですか?
どちらが正しいかという現場レベルの白黒対決に持ち込まず、思考の抽象度をグッと引き上げて、対立を統合することを心がけています。
現場で意見がぶつかる時って、双方が見ているのは「目の前の具体的なやり方や手続き」なんですよ。その低い次元のまま議論しても、お互いの「部分最適」や「個人の正義」のぶつかり合いになって、妥協や感情的なしこりしか残りません。
ですから、まずは双方の言い分をしっかり受け止めた上で、「そもそも、私たちが解決したい本質的な課題は何だっけ?」「この仕事の真のゴールはどこにある?」と、思考のレイヤーを一段、二段引き上げます。
抽象度を上げると、一見相反していた意見も「お客様に最高の体験を届けるため」「現場の事故をゼロにするため」という同じゴールに向かっていたことが見えてくるんです。視座が高まれば、「あなた vs 私」の対立から「2人で共通の目的をどう達成するか」というチームの視点に切り替わります。
「お互いがこだわっていたポイントを両方クリアできる、新しい仕組みやシステムをどう設計できるか」という高次元の解決策へ落とし込む。対立を摩擦で終わらせず、組織が進化するためのエネルギーに変えていくことを常に意識しています。
スタッフの7割以上が外国籍で、中国・ベトナム・韓国にも拠点を広げています。国籍も世代も違うメンバーが力を発揮するために、経営として必要なことは何でしょうか?
日本の古い「以心伝心」や「あうんの呼吸」に頼るマネジメントを捨て去ることですね。
言葉や文化の壁を超えて、誰もが等しく機能する客観的な仕組みと共通の理念を整えることに尽きます。
同質的な日本人だけの組織なら、「空気感」や「察する文化」でなんとなく回ってしまうこともありました。でも、国籍も世代も言語も異なるグローバルな組織では、その曖昧さはミスや不信感を生む最大の原因になります。
多様性を「集団力」に変えるために、やっていることがあります。
ひとつは、徹底した可視化とテクノロジーの同期です。「見て覚えろ」をなくし、業務プロセスをチェックリストや動画マニュアルに落とし込んでいます。さらにAIや自動翻訳、共通システムを実務に深く組み込むことで、言語の壁を感じずに誰もが高い再現性で業務を完遂できるオペレーションを作っています。
それから、高い視座の理念の共有ですね。文化や商習慣の違いという細かい次元で議論するとキリがありません。だからこそ、「私たちは誰のために、どんな価値を提供するのか」「お客様への利他をどう体現するか」という、文化の違いを超越した高い理念やクレドを共有する。目指す山の頂上が一つであれば、登り方の違いはむしろ「組織の柔軟性」という強みに変わります。
もうひとつは、違いを強みとして掛け合わせるカルチャーです。中国、ベトナム、韓国などのメンバーは、非常に高い推進力や勤勉さを持っています。日本の型に無理やりはめるのではなく、それぞれの強みを活かして補完し合える配置を行う。多様な凸凹がカチッと噛み合った時、単一の集団では出せないパワーが生まれるんです。多国籍化は、組織を強固に進化させる最高のチャンスだと捉えています。

07CHAPTERこれからと、来てほしい人
500名の採用計画を掲げ、海外にも拠点を広げています。ここからさらに成長していくために必要だと思うことは何ですか?
メガスケールへと向かう今、必要なのはいくつかのシフトだと考えています。
ひとつは、「個の突破力」から「自律分散型の集団力」への移行です。現場のリーダーたちが高い視座で理念を理解し、各拠点で自律的に判断して動く「強い集団力」を育てられるかが、今後の成長角度を左右します。
それから、AIと最新テクノロジーを、組織の土台として深く組み込むこと。組織が急拡大し多国籍化する中で一番怖いのは、コミュニケーションコストの肥大化とオペレーションの硬直です。生成AIや自動化システムを業務の前提として組み込み、言語や文化の壁を溶かして、新メンバーが初日から高いパフォーマンスを出せる仕組みへと進化させなければなりません。
もうひとつは、利他のDNAを言葉にして浸透させることです。人が急増する時期に最も失われやすいのが、創業の精神や現場ファーストの泥臭い想いだと思います。システムがどれほど優れていても、動かす人間にとって単なる作業になってしまっては終わりです。なぜ私たちはこの仕事をするのか、誰をどう幸せにするのかという理念を、国籍や言語を超えた共通言語として浸透させ続けることが、500人の巨大なエネルギーを一つに束ねる求心力になります。
前回、求める人物像についてもお話しいただきました。この考えは、いまもお変わりありませんか?
まず大前提として、5年前にお話しした「能動性」「失敗を恐れず挑む熱意」「映像への興味や愛情」というベースは今も全く変わっていませんし、これからも不変の土台です。技術や機材は速いスピードで進化しますから、過去の知識や経験にとらわれる必要なんてありません。「新しいことにワクワクできる好奇心」や「未経験でも自ら手を挙げて飛び込める能動性」こそが何より大切です。
500名規模・海外拠点という段階になって、求める人が変わった部分はありますか?
その土台の上で、いま新たに求めたいことがあります。
まず、「朝令暮改」さえも肯定して面白がれる柔軟性です。パンダスタジオの進化スピードは速いので、昨日の正解が今日変わることなんて日常茶飯事です。一般的な会社だと「朝令暮改」って嫌がられますよね。でも変化の激しいこの業界では、「より良い選択肢が見つかったなら、朝決めたことでも夕方に迷わず変える」のが正義なんです。前と言っていることが違うと不満を漏らすのではなく、「それだけ会社が高速で進化している証拠だ」とポジティブに捉え、変化の波を軽やかに乗りこなせる人は、この現場では強いですね。
それから、仲間を活かす「集団力」を発揮できる利他の姿勢ですね。500名体制では個人の力だけで出せる成果には限界があります。異なる国籍やバックグラウンドを持つ仲間をリスペクトし、自分の強みで誰かを助け、仲間の強みを活かして成果を出すことに喜びを感じられるチームプレイヤーが求められています。
さらに言うと、テクノロジーやAIを楽しんで使いこなせる人ですね。壁にぶつかった時に気合と根性で残業して乗り切るのではなく、「どうすればシステムやAIを使って業務を楽にし、再発を防げるのか?」と考えられる合理性ですね。最先端のツールを自分の相棒として面白がりながら、オペレーションを改善できる人がこれからの現場で最も輝きます。
まとめると、「映像への熱い原点を持ちながら、『朝令暮改』も歓迎できる柔軟さで、多様な仲間とテクノロジーを活かしてチームで大きな価値を創り出せる人」。そうした方と一緒に次の歴史をつくりたいですね。

最後に、応募を検討している方に伝えたいメッセージをお願いいたします。
パンダスタジオは今、映像・配信という枠組みを超えて、新しい産業のあり方そのものを定義し直す「最も刺激的で、最も成長痛に満ちた面白いフェーズ」にあります。
ここには、古い業界のしがらみや理不尽なルールはありません。あるのは、どんどん進化していく最先端の機材、ITやAIという強力な武器、そして世界中から集まった熱い仲間たちです。
もしあなたが、
「変化のない環境に退屈している」
「前例踏襲や根性論ではなく、最新のテクノロジーや仕組みを使って大きな結果を出したい」
「『朝令暮改』すらも会社の急速な進化として面白がり、自分を軽やかにアップデートしていきたい」
「一匹狼ではなく、多様な仲間とお互いの強みを活かし合う『集団力』で勝ちに行きたい」
そう思われるなら、これほど自分の可能性を広げられるフィールドは他にないと思います。
過去の映像経験や専門スキルの有無は気にしなくて大丈夫です。入社してから、充実したシステムとチームの仲間が全力でサポートします。必要なのは、「新しい世界へ飛び込んでみたい」という純粋な好奇心と、前向きな熱意だけです。
激しい変化の波を恐れるのではなく、共に楽しんで乗りこなしながら、世界に誇る映像インフラのスタンダードを一緒に創り上げていきましょう。熱い志を持ったあなたとお会いできる日を、心から楽しみにしています!

取材を終えて
「正しいことを粛々としていれば、活路は見出せる」。学生時代のいちばん苦しかった時期を振り返って出てきた言葉です。ごまかしを入れたらあの時はだめだったと思う、と続けられました。原稿に並ぶ「利他」や「仕組みで解決する」という言葉の手前に、この実体験があります。
もうひとつ印象に残ったのが、「みんなが苦手だと言う人と付き合うのが得意技」という一言でした。相手を苦手な人として遠ざけるのではなく、どう接すれば関係が築けるかを考える。人との距離を本能的にはかる力は、厳しい環境のなかで身につけたものだそうです。個の力を集団の力に変えるという今回の話は、この人の実感から出ているのだと思いました。