代表インタビュー
#00
INTERVIEW
代表インタビュー

「サーカス団みたいな
会社だよね」
キヤノンの赤い帯が入った高価なレンズを、同業者に無償で貸し出す。パンダスタジオの機材レンタル事業は、そんな「どうぞどうぞ」から始まりました。
紙での在庫管理から、頭の中で一気に設計したという450項目超の巨大レンタルシステムへ。いまはアジア15拠点での同時展開を見据えています。国籍もバックグラウンドもバラバラなメンバーが集まる会社を、代表取締役の西村正宏(以下:西村)はこう表現します。「スタッフを見てるとサーカス団みたいだよね」。
約2時間にわたって、創業の経緯から組織のつくり方、採用で見ているところ、10年後の景色までを聞きました。
CONTENTS|目次
PROFILE|インタビュイー
| 役職 | 代表取締役 |
|---|---|
| 経歴 | 1971年兵庫県生まれ。駒澤大学大学院(経営学修士号)、早稲田大学大学院(情報工学修士号)取得。1997年に有限会社キバンを設立。2009年に株式会社キバンインターナショナル代表取締役、2013年に株式会社PANDASTUDIO.TVを設立し代表取締役に就任。 |
社会人になってから受けたレーシック手術で視力が大きく回復したことをきっかけに、何か新しいことをトライしたい、そんな思いでスキューバダイビングと写真・映像の世界にのめり込んだ。特に、写真は父親からマニュアルカメラで写真のイロハを習った少年時代の楽しい思い出が鮮明に思い出され、急速にはまっていった。写真を撮ればとるほど、カメラではなく、レンズの影響が大きいことを痛感。キヤノンの赤帯のLレンズのこってりと濃い色合いに惚れ込んだ。
このキヤノンのLレンズを、お取引先に無償で貸し出したことが、現在の機材レンタル事業の原点となった。
在庫管理の限界からレンタル管理システムを自ら設計。5年前に書き上げた仕様書が、いまも現行システムのベースとして動いている。香港に物流の中心を、深圳に機材調達の拠点を置き、アジア15拠点での同時展開を計画中。機材レンタル、スタジオ運営、生配信、eラーニング、eスポーツなど事業は多岐にわたる。
「オーケストラのような組織」を理想に掲げ、稟議書を廃したシンプルなルールと、多様性を重視した採用を続けている。
01CHAPTER一本のレンズから始まった
初めて会う人に一言で「パンダスタジオとは何の会社か」を説明するなら、どうお答えになりますか?
スタッフを見てるとサーカス団みたいだよね。
僕自身は、映像がすごく好きなんです。小学校4年生くらいからずっと視力が弱い人生が続いていたんだけど、社会人になってからレーシックを受けて、突然よく見えるようになった。それで、視力がいいからこそできることは何かなと考えたんです。
スキューバダイビングのライセンスを取ったり、写真を撮り始めたり。最初は父親が若い頃に使っていた完全アナログのカメラでした。ただ、フィルム3本も現像に出すと1万円を超えてしまう。それでキヤノンのEOS 10Dという初期のデジタル一眼を中古で買って撮ってみたら、評判がよかった。そこからレンズを買い、カメラを新しくして……という具合です。
そこからどうやってレンタル事業になったのでしょうか。
もともとは、僕が個人で持っていた機材を貸し出すところからです。キヤノンのLレンズという赤い帯が入った高いレンズがあるんだけど、同業他社の人たちが「高くてなかなか買えない」と言う。じゃあどうぞどうぞ、と。お金を取らずに貸し出したのがレンタルの始まりでした。
でも、自分が使いたいときに手元にない。それが面倒で、せめてどこにあるかくらいは把握しようと問い合わせフォームだけを作って、貸し出したものをメモして紙に貼る。一番最初は紙運用からのスタートです。
そうしたら、安かったこともあってあっという間に火がついた。全部出荷したと思ったのに最後に紙が1枚落ちていて、「これ出荷したっけ、してなかったっけ」と。これはちゃんとシステムにしようと思って、月額1,000円のカートシステムをカスタマイズして在庫表示ができるようにした。それが本格的なスタートです。
現在のシステムは、どのように構築されたのですか。
月額1,000円のカートシステムを使ってやっていたら、問題が出てきました。決済額があっという間に月1,000万円を超えて、運営から「不正利用ではないか」と何度も電話がかかってくる(笑)。それに、カメラとレンズといった組み合わせ商品を作ると在庫が連動しない。手作業でやっていたら管理が破綻するな、と。
「仕方ない、作るか」と思って、本格的なオープンソースのカートシステムで作り直した。そのときに、450項目超のプログラムを頭の中でどーんと一気に設計したんです。集中したかったので、軽井沢まで車で行って、美味しいパン屋さんのテラスで一気に書き出した。その仕様書が、5年経ったいまもずっと生きています。
頭の中で450項目超というのは、なかなかピンとこない方も多そうです。
機材を仕入れて、貸し出して、同じ商品が2つあるから取り違えが起きないようにして、機材ごとに故障履歴やレンタル履歴が必要で……と、事業が動く順番に頭の中に並べていくと、必要なシステムって案外設計しやすいんです。分岐は多いけれど、一瞬、頭の中にキャッシュしていく感じかな。
02CHAPTERオーケストラのような組織
冒頭の「サーカス団みたい」という言葉、応募する方は気になるかもしれません。
意図的なんです。自分のコピーロボットが欲しいという人もいるけれど、僕はできるだけ、採用のときに自分と違うタイプの人を入れるようにしています。同じタイプの人ばかり入れても、時代が変わったときに順応・適応できないと考えているから。みんな得意分野が一緒だったら、新しいものが出てこない。時代の変化にも対応しづらく、硬直する。だから意識的に、生まれも育ちも専門も違う人を採用するようにしています。
有名な映画の音声をやっていた人が、うちに来てAIを使ってプログラムを書く方法を覚えたら、楽しくなってあっという間に詳しくなってプログラマーとして大活躍しています。飛行機に乗ったこともなく、当然、海外に行ったこともない人を海外担当にあて、月の半分を海外出張に行ってもらって、いろんなことを経験してもらったりしています。デザイナーとして世界に共通デザインを作ろうと思うと、世界中の人とふれあったり、いろんな文化に触れることで多様性に触れたり、人間の普遍性に気づきがあったりします。
デザイナーがデザインしかできないんじゃなくて、プログラムもできる、サイトのコンセプトも考えられる、営業やマーケティング、広報の視点もある、いろんな視点や能力を持つことで、この複雑で流れを読むことが難しい時代で生き残っていけるようになると思っています。
一人ひとりは専門は違うけれど、ゴールは同じところを目指している。そんな組織を目指しています。理想はオーケストラのような組織です。1人の指揮者のもと、同じ曲を、複数の楽器の専門の人があつまって演奏する。ピアノの人はバイオリン、フルートは演奏できなくても、最高の演奏のハーモニーになっているかは理解して、お互いに協力しながら演奏をすすめ、最高の演奏で観客を感動させる、そんなゴールにそれぞれが向かっているそんな一体感のある組織を目指しています。
今は、オーケストラというより、それぞれの特技を持った人たちがあつまっているサーカス団のようですが、人を喜ばせる、楽しませるというゴールに向かって、それぞれサーカス団員が努力しているというのであれば、サーカス団であってもオーケストラでも同じかなと思っています(笑)。
理想はオーケストラ、いまの雰囲気はサーカス団。向かうゴールは同じ

パンダスタジオでは海外出身の方、特にネパール出身の方が多く働いていますが、多国籍なチームになった経緯を教えてください。
2020年(実際の開催は2021年)の東京オリンピックのときに、世界中のテレビ局に機材を貸し出す業務がありました。かならず英語での対応が必要でしたし、当時はレンタル自体もすごい勢いで伸びていて、3カ月ごとに2倍になっていたんです。
英語対応ができる人が必要だと思ったときに、案外、日本人だけで英語を話せる人を集めるのは難しい。英語力を必須にしたら、当時、成田空港の職員をしていたネパール出身の方が入社しました。英語も堪能で超優秀。ちょうどコロナで自宅待機になり働けなくなっていたのがきっかけで転職してきました。そこからは紹介、紹介であっという間に広がっていきました。その流れは、今も続いています。それに、ほとんど誰も辞めていないんじゃないかな。
多国籍になったことで、社内はどう変わりましたか。
日本語より英語で説明することが多くなり、一時は社内の第一言語が英語になっていた時期があります。システムの多くを数字で管理しているのも、似た商品名は外国人には区別が難しく、勘違いが起きないようにするためです。顧客番号、注文番号、機材番号、お問い合わせ番号と、すべて数字で管理するようになりました。また、曖昧な日本語を指示に使うとトラブルになるので、できるだけ回りくどい表現をしないで、直接的な表現に変え、ゴールをできるだけ分かりやすく伝えるようにしました。
最初にゴールを伝え、方法はみんなで考えるようにしています。たとえば「アジア15拠点でレンタル事業を展開したい」と伝えて、どのような方法で、このゴールを達成するかは、みんなで考えてもらう。似たような人ばかりを集めたら、同じような解決策を出すけれど、みんなバックグラウンドが違うから、それぞれ違う答えが出てくる。それがとても面白いし、パンダスタジオの特徴になっています。
優秀な人には、マイクロマネジメントはしない。小さなこと全部管理したり、やり方を全部指示したり、規則を一杯作ったりはせず、どのような方法がよいかは、現場の判断や工夫に任せるようにしています。
理想の組織イメージはありますか。
先にも話したように、オーケストラみたいな組織かな。
みんな「素晴らしい演奏で感動を作る」という同じ目的はあるけれど、ピアノの人とフルートの人は、お互いのことを詳しくは分かっていない。それぞれどうやって練習するかは、全部自主性に任されている。トータルでみんなの力を合わせて、いい演奏になればいいんじゃないでしょうか。高い専門性というゴールだけが共通していて、それぞれの分野はそれぞれの人に任されている。理想はオーケストラ、でも、いまの会社の雰囲気は、サーカス団のような雰囲気かなと思っています。大好きなシルク・ドゥ・ソレイユのような組織かなと思っています。
社内のルールもかなりシンプルだと感じますが、理由はありますか。
ルールを細かく作る意味がないというのはあるかな。稟議書もありません。「必要なものは、会社のアカウントとカードを渡すから買ってください」と。ただし不正利用したら一発アウト。「いくら以上は稟議が必要」なんて決めると、2枚に分けたりして意味のないことをする他社の事例を見てきました。何のためのルールかを忘れ、ただルール通りにすることが「仕事」だと思っている硬直した組織にはしたくないのです。
いまは買い物をすると商品一点ずつの明細が会計ソフトに自動で取り込まれる。全部自動化してあるから、世界中どこでも同じルールでいけます。金額によるルールを作ると、世界中でルールを調整しないといけない。500人になっても、世界展開しても十分に使えるシンプルなルールがベストです。国ごとにルールを作る必要もないですよね。
あとは、なんでもオープンに情報開示をしています。東京テレビセンターの事業を承継したときに、全従業員の給料も会計ソフトの情報もすべて開示しました。ものすごく反発を食らったことがあります。でも、「その給料はおかしいんじゃない?」と思われるような不公平があること自体が問題だし、社内に秘密だらけでは、トラブルが見えてこないし、改善点もみえてこないから。アクシデントが起きたら、全員ですぐに対応にあたるのが重要です。社内システムで小さなトラブルやインシデントを全員がリアルタイムに共有するようになっているのは、アクシデントになるまえに、常に小さなインシデントのうちに、情報を共有し解決にあたるという哲学のもとに運用されています。
03CHAPTERまずは世界15拠点へ
海外事業展開の経緯と、目指すゴールを教えてください。
きっかけは、海外に機材の買い付けに行ったときにパンダスタジオのレンタル事業が急成長した理由や秘訣を聞かれたことです。完全に自動化したロボット倉庫を導入している話、Webアプリのシステムで管理されている点、コールセンターに来た問い合わせをすべて録音して満足度をAIに判定させたり、改善点を洗い出す話をすると、「そのシステムをぜひ私たちの国でも使いたい」「検品のやり方を教えてほしい」「機材用に標準化したオーダーメイドのバッグを譲ってほしい」「コールセンターのシステムをぜひ使わせてほしい」とリクエストされることが多い。最初は質問されるままに、方法や解決策をレクチャーしたり、資料を差し上げていたんだけど、なかなか進まないんですよ。簡単に教えると、なるほどと思って頂けても実行はされない。テストの答えだけで満足してしまいます。これはレクチャーではなくて、自ら行動をおこすしかないという思いが強くなりました。
中国では、一番大きなレンタル会社と提携し事業を開始しました。その会社は個人向けしかやっていなくて、法人向けもやりたいけどノウハウがない。ぜひパンダと一緒にやりたいと言うので、二人三脚で事業を開始しました。
そして次のステップとして、10カ国。拠点数でいくと15拠点で同時にレンタル事業を展開します。15拠点となると、日本ではなく世界を中心に据えた本社が必要になる。香港に物流の中心をおき、深圳には機材調達の倉庫も必要になります。
メーカーさんの立場で見ると、日本の分だけ買うのと、15拠点分を買うのとでは、購入量が全然違う。より多くの機材を安価に仕入れて、世界中の皆さんに使ってもらえるようにしたい。それが今の目標です。それに合わせて、世界中の優秀な人材を募集するということですね。
「500名採用」という数字も掲げていますね。
500人と言っていますが、アジア10カ国で始めた場合、1つの国で50人でしょう。日本で50人というと、各都道府県に1人くらい。決して大きな話をしているわけではないんです。検品を手伝ってくれる人、配達を手伝ってくれる人まで含めれば、500人をはるかに超える雇用につながる仕事だと思っています。
スタート時は、どの会社も、2人、3人の時は簡単です。それくらいなら、元気ないな、落ち込んでいるな、とすぐわかります。「食事でもいって話をするか!」そんなやり方ができるけれど、500人ではできない。だから、500人の体制になってもちゃんと機能するように、最初から組織や仕組みをつくっていくしかない。数名の会社のときの方法から、突然大きな会社のやり方には変えられませんから。最初から大きくなった時のための仕組み作りをするようにしています。
日本以外に1拠点だけ追加するなら根性で拠点を作れるけれど、15拠点は根性では解決できない。まして日本だけで15,000種類、10万点の商品管理となると、根性で絶対にこなせる数量ではありません。
少ない人数で管理できる仕組みをシステム化したり、日々のオペレーションにAIを活用するとか、自動出荷、ロボット倉庫の仕組みを最初から考えておく必要があります。機材を入れるオーダーメイドのバッグのサイズや、様々な収納を最初から標準化するとか。後でやるか最初にやるかなら、最初にきちんとやっておいたほうがいいと思っています。
04CHAPTER採用で見ているところ
どんな人材を求めていますか。
採用のときによく考えるのは、まず1つ目は、一緒に食事をして楽しいかな、一緒に仕事をしてワクワクするかな、ということ。だから明るい人を優先的に採っています。
陰気で暗い人が作ったものと、明るくて楽しい人が作ったもの、どちらを買うかといえば、明るい人が作ったもののほうがいい商品で楽しい。思いやりや気配りの利く人の仕事には、その優しさが表れます。「優しい」の「優」は「優秀」の優と同じ字ですよね。優秀な人を採用する上で「優しさ」を大切にしています。
2つ目は、嘘をつかない人。失敗しても「俺は悪くない」「あいつのせいだ」とごまかしてしまうと、成長がないんです。素直な人、嘘をつかない人を優先しています。素直で嘘がない人でないと、お互いの信用を築いていけませんからね。
3つ目は、これは一人ひとりというより組織全体の話ですが、できるだけ同じタイプの人を採らないこと。全員日本人にしていたら海外進出はできなかっただろうし、営業だけが得意な人ばかりだったら、自動倉庫やシステムは作れなかった。ダイバーシティ、多様性はかなり意識しています。
「この人はパンダで伸びるな」と思うのは、どういう人ですか。
社員第1号の中村は、一緒に食事に行っても、オーダーをしたらコンピューターのマニュアルを開いて、話しかけても「マニュアル読んでますんで」と言うような人でした。食事を忘れて熱中してしまう。ああいう状態になると、もう教えることは何もない。どんどん自分で勉強して成長していきます。中村は一緒に仕事をしてきた30年の間に4つの大学院で学んでいて、学び成長し続けてきた証だと思います。
そのきっかけ作り、熱中できることを見つけてあげるのが上司の役目だと思っています。楽しくて仕方がないということを見つけられたら、自然にその人は伸びるんじゃないでしょうか。だからとにかくやらせてみる。いろんなことにチャレンジしてもらう。楽しそうにしているな、これは苦手だな、というのを見ているんです。
05CHAPTER経営者として
事業はいろいろ移り変わってきましたが、一度も変わっていないことはありますか。
どの事業も、「そんなことをやったら儲かる」という発想はあまりないんですよ。「これ不便だから解決しよう」「こんなサービスあったらいいよな」が共通点です。
レンタルを始めたのも、みんなが困っていて、無償で貸したらすごく喜んでくれると分かったから。それなら安価な金額で誰でも使えるようにしよう、返却が便利なように、全国のコンビニで24時間返せるようにしよう、レンタル当日ではなく、余裕をもって前の日に届けよう、と。みんなが喜んでくれるならやってみるか、というのがすべての事業のスタートです。
eラーニングも、社会人になったら、なかなか勉強に行けない。いいタイミングでいいコンテンツが見られたらいいなと思って、自分で作って自分で使って、よければ他の会社にもご紹介する。綺麗に撮りたくてカメラやライトやマイクを研究したことが、いまのレンタル事業につながっている。一見関係ないように見えて、全部つながっているんです。誰かに喜んでもらえることをやる。そこが共通しているんじゃないですかね。
今までで一番の失敗は何でしょうか。
あまり失敗と思ったことはないですね。いろんなトラブルは起こるけれど、問題を面白がって解決策を見つけるのが仕事かな、と思っているので。強いて言えば、インタビューの前に昼飯を食っておけばよかったな、くらい(笑)。
……まあ、強いていうなら、働きすぎて脳出血を起こしたことでしょうか。死にかけて2ヶ月半もICUに入りましたし、右半身麻痺になりました。突然3ヶ月近くも出社出来ず、多くの人に迷惑をかけました。よくないですね。私が居なくても回る仕組みを作る、そんな思いを強くするきっかけにもなりました。
脳出血して死にそうになったとき、痛みもなかったので、人間、案外簡単に死んじゃうんだなと思いました。ぼーっと生きていると、あっという間に人生が終わってしまう。「いつかやろう」と思っているうちに、突然終わってしまうことを実体験で痛感しました。やりたいことは元気なうちにやっておかないと。海外進出をやるぞと決めたのも、そういう感覚です。私たちの会社は、すぐにやる!スピード、時間は何よりも大切な経営資源です。
いま一番時間を使っている仕事は何ですか。
空想することかもしれません。頭の中で将棋の駒みたいに、こうしたらこうでしょう、こうなるからここでこうして、と事業のシミュレーションをよくするんです。朝から晩まで完全に集中して、時間の感覚がなくなるまで集中して空想します。誰からも話しかけられない状態だと、無限にシミュレーションができる。
問題は、いくら丁寧にシミュレーションしても現実は動いていないこと(笑)。多分、そういうことを考えている時間が楽しくて好きなんでしょうね。
最近、一番面白かったことは何ですか。
中国は、至るところにロボットだらけなんですよ。子供みたいな反応をするロボットがいて、予定や予想された事以外が起きると、何が起こったか分からなくてあたふたしてしまう。乱暴な車が割って入ると、自動運転のタクシーがピコンピコン鳴って交差点の真ん中で立ち往生したりね。人格はないはずなんだけど、まるで人みたいな振る舞いをしている。
面白いのは、ロボットが立ち往生したら人間がサポートするし、人間が困っていたらロボットがサポートする。中国の深圳市にきて驚いたのは、人間とロボットがお互い助け合っている感じが、もう生活の中に定着していることです。東京にいたときは、スマートフォンが人生の一部になっている感覚はあっても、ロボットがそこに入ってきている感覚はなかったですから。
入社前にぜひ読んでおいてほしい本があると伺いました。それはズバリ、何でしょうか。
3冊あります。ジム・コリンズ著『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(日経BP)、稲盛和夫さんの『稲盛和夫の実学――経営と会計』(日本経済新聞社)、カール・スウェル+ポール・B・ブラウン著『[新版]一回のお客を一生の顧客にする法 顧客満足度No.1ディーラーのノウハウ』(ダイヤモンド社)の3冊でしょうか。
『一回のお客を一生の顧客にする法』を書いたのは、全米屈指のキャデラックディーラーを経営していた人物です。いろんな状況でそのサービスは有料か無料か、示唆に富む事例が沢山でてきます。サービスの値付け、無料対応の範囲が難しい。その本で紹介されている基準は、「それが自分の兄弟だったり、親だったときにお金を取りますか?」というものです。答えは簡単ですが、書籍の中では沢山の事例の考え方、対応の仕方が紹介されています。いずれも「一生のお客様」を作るために、どのように考えて、経営にあたるかが紹介されています。
夜中に、車のなかに、鍵を忘れインロックした状況が紹介されます。雨の中、深夜に鍵を開けに行って、たとえ100ドルもらっても、それは普通のディーラーのやり方。その100ドルでは地元の小さなラジオ局の15秒のCMも流せない。仮に流せたとしても、一生のお客様は手に入らない。でも、一番困って誰も助けてくれない雨の降る寒い夜にわざわざ来て助けてもらって、車を買ったお客様に対して一生のサービスといわれれば、そのお客様は感動して、次に車を買い換えるときに、そのディーラーで車を買います。そのお客様は一生のお客様になる。そこで100ドルを受け取るのではなく、一生のお客様をつくることを最優先する。
パンダスタジオでは常にリピート率を見ています。いまは売上の9割がリピーターだから、広告宣伝も営業もなくても会社が回っている。リピーターになってもらえるよう、一生付き合っていただけるようにサービス内容を考えるのは、明らかにこの本の影響です。東京テレビセンターの事業を引き継いで一番最初にやったのがビルのトイレを全部作り替えること、レストランで美味しい食事を出すことも、実はこの本がヒントだったんです。トイレだけでも使ってほしい、レストランだけでもいいから利用してほしい。そして小さなことがきっかけで、そこから一生のおつきあいに成長させたり。トイレもレストランも本業から外れるようなことも、一生のお客様をつくるための方法として、この本に書いてあったことですね。忘れた頃に読み返すと、読み返すたびに学びがあります。
『ビジョナリー・カンパニー2』には「コッテージ・チーズを洗う」という逸話が出てきます。トライアスロンの世界チャンピオンが、余計な体脂肪をつけたくないからと、脂肪分の少ないコッテージ・チーズをさらに水洗いしてから食べる。飛び抜けてすごい会社には、常人には考えられないほどこだわりの強い部分が必ずある、という話です。「ハリネズミの概念」「弾み車」など、目からうろこの法則が沢山紹介されていて経営に強い影響を与えています。
『稲盛和夫の実学』は、経営を勉強してこなかった人へのおすすめ一冊。商売の大事なことが全部そこに書いてあります。学生時代に読んだときは「うん?当たり前のことが書いてあるだけ」と思ったんだけど、経営者を初めてやってみると、なるほどと分かるんですよ。「アメーバ経営」「土俵の真ん中で相撲をとる」「ダム式経営(松下幸之助の話)」など、私たちの経営に大きな影響を与えています。数値ですべてを測定し経営を把握する手法はアメーバ経営が大きなヒント、ベースになっています。
06CHAPTER10年後の景色
10年後、この会社にはどうなっていてほしいですか。
10年もしたら、世界中にパンダスタジオがあります。世界中にスタッフもいて、お客様も全世界に広がっている。全部の国の言葉をマスターしなくても、AIグラスみたいなものが言葉の壁を低くして助けてくれるでしょうし、カメラ、ビデオによる映像表現は言語に関係なく世界共通です。また高価な機材を買うのではなく、必要なときに、メンテナンスされたものを必要なだけ使う。レンタルはますます定着すると思います。レンタルは社会になくてはならない社会インフラの一部になっています。
働き方も変わるでしょうね。週5日は働いていないかもしれない。どんどん便利になって、人間が働く時間は減ってきています。午前中だけ働けば良いとか、数時間働けばいいようになっているでしょう。「日本の秋はきれいだから秋の期間は日本で働こう」「寒くなってきたからマレーシアで過ごそう」と。世界中にビジネスをする場所があって、システムが標準化されていれば、「韓流アイドルのコンサートがあるので、しばらく韓国で働いてきます」ができるんじゃないですか。そんな自由を手に入れられるようにしたいですね。
これから入社する人には、10年後どうなっていてほしいですか。
うちの会社で仕事のやり方を覚えて、経営者になる人もいっぱいいる。この会社でやりたいことを見つけたり、楽しいことを見つけてくれたり、長く居る人も多い。
仕事の仕方を覚えて、うちの会社だけでなく、みんなが幸せになるようなビジネスができるようになってほしいですね。幸せがどんどん広がっていってほしい。
取材を終えて
「そんなことをやったら儲かる、という発想はあまりない」。約2時間のインタビューで印象的だったのは、誰かの困りごとを解いた先に事業ができてきた、というお話でした。
無償で貸したレンズも、頭の中で組み上げたシステムも、稟議書のないシンプルなルールも、根っこにあるのは同じ考え方なのかもしれません。そして、その延長線上に「世界15拠点」と「500名採用」があります。
生まれも育ちも専門も違う人たちが、それぞれの楽器を鳴らす。そんな「サーカス団みたいな」オーケストラに加わってみたい方を、パンダスタジオはお待ちしています。





